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『微笑む人』 著:貫井 徳郎

hohoemu


普通のミステリ小説ではないことを申し添えておきます。

本作では、プロローグから犯人の名前が明らかになっていることから、普通のフーダニットと呼ばれるミステリでないことは想像がつきますが、まさかの結末に唖然とさせられます。

本格ミステリを読みたくて、という方は御期待には添うことができないでしょう。

しかしながら、”幼い命を死に追いやった裁けない殺人”を取り扱った『乱反射』をはじめ、社会派と呼ばれる作品を多く生み出している作者ならではのミステリーがこの本にも込められているのです。

この作品は、仁藤俊実という殺人犯の半生を、作家である主人公が追うといった形で進められていきます。
仁藤は、川辺で事故に見せかけて妻子を殺害しますが、『本の置き場所がなくなったから殺した』などという常人では理解の及ばぬ供述を続け、裁判官や警察からも”真の動機”を告げるよう求められる有様の人物です。しかしながら、それが真の動機ではないと誰に判断できるのでしょうか。

仁藤という男は、頭が良く、背が高く、いつも柔和な微笑みを浮かべたいい男。トラブルに遭えば、スマートに仲裁し、まさに非の打ち所のない人物なのです。
主人公は、そんな仁藤の不可解な言動や行動に魅了され、仁藤の心情に迫るために、彼の同僚、大学の同級生、高校の同級生、生家を訪ね、次々と仁藤という男の内面を暴き出そうと試みます。

人が罪を犯すときには、何を考えているのだろうか。
人が人を殺すということは、どういう意味なのか。現行の司法システムはその点を明らかにし、罪と罰そして量刑を決定していくわけですが、作者は稀にそのような考えの当てはまらぬ異常犯罪が現代社会では起こり得るのだという主張を、この本をもってしているのです。

どこかで読みましたが、事件が報道されるときに人は犯罪の動機を知りたいと思うわけですが、それは動機を理解して「ああそれなら自分は関係ない」と安心したいからなのだと。
なるほどそれはそうかもしれません。

常人の理解が及ばないから真実ではない、というのは人の傲慢であって、自らが理解できないことのほうが世には多く蔓延っており、現代の異常な事件群もその一端であるというのが作者のメッセージとなっているのですね。

そういうメッセージ性の強い作品でありつつ、仁藤という男の人格そのものを”謎”に見立てて、物語を進めるというミステリの形式は素晴らしいものですが、残念なのはやはりラスト。

真相・真実は読者に委ねるといった形態を取り、冒頭で述べたとおり消化不良の状態で物語がまとめられてしまいます。読者に媚びた内容ではないところに潔さは感じますが、そうであればミステリーとしての広告はしないで欲しい、と思ったり思わなかったり。

作者本人にそのような意図がないにせよ、ミステリーと標榜されると”衝撃の真相”に期待を寄せてしまうのは、やむを得ないことかと思っています。兎も角、面白さにかかわらず、自明のことであればまだしも、ミステリーと銘打っておきながら真実を読み手に委ねるとする作品は、容認しづらいものがあるという話です。

オススメ度 ☆☆

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『天使の屍』 著:貫井 徳郎

思慮深かった中学二年の息子・優馬がマンションから飛び降り、自殺を遂げた。動機を見出せなかった父親の青木は、真相を追うべく、同級生たちに話を聞き始めるが…。

“子供の論理”を身にまとい、決して本心を明かさない子供たち。そして、さらに同級生が一人、また一人とビルから身を投げた。「14歳」という年代特有の不可解な少年の世界と心理をあぶり出し、衝撃の真相へと読者を導く、気鋭による力作長編ミステリー。

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