カテゴリー別アーカイブ: 一言書評(小説)

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『しんがり 山一證券 最後の12人』 著:清武 英利

しんがり

 この作品は97年に山一證券が破綻した際に、破綻した真の原因は何かを調査した社内の調査員たちのノンフィクションです。

 私はほとんど記憶にありませんが、当時随分大きく取り上げられたようでした。物語は、山一證券最後の12人が作成した調査報告書や当時の記録、関係者からの聞き取りによって形作られたノンフィクション。

しかしながら、ジャーナリストが執筆したためか、小説のようにまとまったものではありませんでした。

破綻に追いやられた山一證券の破綻原因を究明すべく自発的に集まった熱い社員たちのヒューマンドラマ。各人にエピソードがあり、密度の高い取材を続けられたことが伺えます。

それだけに、非常にテンポは悪いです。とある人物の見せ場を作るために、いちいち過去編のようなエピソードを刻んでいくので、冗長に感じます。そのため、時系列が混みっており、突然昔話が割り込んできたりして、リーダビリティはよろしくない。

また、ノンフィクションものだけあって、過剰な演出は抑えられており、逆に感情移入しにくい書きぶりになっているところが難点です。調査した事実の部分を、粛々と羅列していったような、そんな乾いた印象を文章から感じ取ってしまいます。

”しんがり”となった社員たちの努力と信念には驚嘆の念を感じますが、作品自体は少し残念なものでした。エピソードを詰め込みすぎた感があり、かなり蛇足な印象を受けます。
取材に基づいているので、少しでも多くのことを読者に知らせたい、という意図は伝わりますが、そのため読みにくさが勝ってしまうのでは本末転倒です。

ノンフィクション自体それほど読んだことがありませんので、このようなものなのでしょうか。

オススメ度 ☆☆

 

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『夢幻花』 著:東野 圭吾

mugenbana

『夢幻花』。
見つけても決して追いかけてはいけないという謎の花の物語です。

東野圭吾の文庫版最新作が刊行されました。
いろいろな小説を読んできましたが、やっぱり東野圭吾の小説は読みやすい。本作は、宿命を背負う二人の素人探偵が『夢幻花』という謎の黄色い花を追い求めるというストーリーです。

思わせぶりなプロローグから始まり、何の変哲もない平凡な大学生の日常が、とある事件を境にサスペンス風に変化していくのは東野小説の真骨頂。

花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治。正義を重んじる彼は自宅で殺害される。周治の遺体を発見した孫の梨乃は、周治が生前育てていた”黄色い花”をブログにアップロードすると、ブログに”警告”メッセージが投稿される。

梨乃は、”黄色い花”の謎を、大学院生の蒼太とともに追い求めることになるのです。

ストーリーとしては、いくつもの事件が絡み合って収束していくいつもの東野ワールド。登場人物たちの役柄や犯人の意外性は及第点、というと上から目線すぎますけど、それなりに興味深いもの。

今回のキーワードは”黄色い花”。実際にこのような花が存在したのかは知りませんけど、ともすれば都市伝説を追いかけるようなオカルティックな雰囲気は少し珍しいかも。

ストーリーは、梨乃と蒼太を主人公に置いた若者視点と、所轄の刑事・早瀬の視点で進められます。若さならではの猛進な捜査と、駆け引きを多用する老獪な捜査。二つの視点から謎を追う過程が楽しめます。

この物語のもうひとつのテーマは宿命。
50年前の”MM事件”との関係は?
”黄色い花”と蒼太の初恋の人との関係は?
読み進めていくうちに、謎が増えに増えて収拾がつくのか不安になりますが、そこは流石といったところです。

エンターテインメントとしては面白いけれど、後に何も残らないよね、という話をよく聞く東野作品。
私は面白ければいいじゃないのと思いますけどね。素直に楽しみましょう。

オススメ度 ☆☆☆

 

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『微笑む人』 著:貫井 徳郎

hohoemu


普通のミステリ小説ではないことを申し添えておきます。

本作では、プロローグから犯人の名前が明らかになっていることから、普通のフーダニットと呼ばれるミステリでないことは想像がつきますが、まさかの結末に唖然とさせられます。

本格ミステリを読みたくて、という方は御期待には添うことができないでしょう。

しかしながら、”幼い命を死に追いやった裁けない殺人”を取り扱った『乱反射』をはじめ、社会派と呼ばれる作品を多く生み出している作者ならではのミステリーがこの本にも込められているのです。

この作品は、仁藤俊実という殺人犯の半生を、作家である主人公が追うといった形で進められていきます。
仁藤は、川辺で事故に見せかけて妻子を殺害しますが、『本の置き場所がなくなったから殺した』などという常人では理解の及ばぬ供述を続け、裁判官や警察からも”真の動機”を告げるよう求められる有様の人物です。しかしながら、それが真の動機ではないと誰に判断できるのでしょうか。

仁藤という男は、頭が良く、背が高く、いつも柔和な微笑みを浮かべたいい男。トラブルに遭えば、スマートに仲裁し、まさに非の打ち所のない人物なのです。
主人公は、そんな仁藤の不可解な言動や行動に魅了され、仁藤の心情に迫るために、彼の同僚、大学の同級生、高校の同級生、生家を訪ね、次々と仁藤という男の内面を暴き出そうと試みます。

人が罪を犯すときには、何を考えているのだろうか。
人が人を殺すということは、どういう意味なのか。現行の司法システムはその点を明らかにし、罪と罰そして量刑を決定していくわけですが、作者は稀にそのような考えの当てはまらぬ異常犯罪が現代社会では起こり得るのだという主張を、この本をもってしているのです。

どこかで読みましたが、事件が報道されるときに人は犯罪の動機を知りたいと思うわけですが、それは動機を理解して「ああそれなら自分は関係ない」と安心したいからなのだと。
なるほどそれはそうかもしれません。

常人の理解が及ばないから真実ではない、というのは人の傲慢であって、自らが理解できないことのほうが世には多く蔓延っており、現代の異常な事件群もその一端であるというのが作者のメッセージとなっているのですね。

そういうメッセージ性の強い作品でありつつ、仁藤という男の人格そのものを”謎”に見立てて、物語を進めるというミステリの形式は素晴らしいものですが、残念なのはやはりラスト。

真相・真実は読者に委ねるといった形態を取り、冒頭で述べたとおり消化不良の状態で物語がまとめられてしまいます。読者に媚びた内容ではないところに潔さは感じますが、そうであればミステリーとしての広告はしないで欲しい、と思ったり思わなかったり。

作者本人にそのような意図がないにせよ、ミステリーと標榜されると”衝撃の真相”に期待を寄せてしまうのは、やむを得ないことかと思っています。兎も角、面白さにかかわらず、自明のことであればまだしも、ミステリーと銘打っておきながら真実を読み手に委ねるとする作品は、容認しづらいものがあるという話です。

オススメ度 ☆☆

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『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』 著:岩崎 夏海

mosidora

いわずと知れたベストセラーでございます。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

これほど長いタイトルも稀ですが、当時話題が沸騰した『もしドラ』のご紹介です。

ビジネスパーソンでありながら、恥ずかしながらピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』の原書(訳書)は読んだことがありません。

エッセンスを抽出したビジネス本程度の知識しか持ち合わせておりませんが、この本も同様に『マネジメント』のエッセンスを高校野球の女子マネージャーが抜き出したらどうなるのか。という空想を元に形作られた小説です。

岩崎氏のデビュー作ということもあってか、小説としての完成度は途上という印象を受けますが、往年の経営者の名著を高校野球のマネジメントへ転用するというアイディアは秀逸。ベストセラーももうなずけます。

可愛い女の子が表紙イラストを飾るというビジネス書の一様式を築いた点も忘れてはなりませんね。疲れたビジネスパーソンたちの癒しになったのか。確かにビジネス書というものはともすれば敬遠しがちなものですから取っつきやすさというのは重要です。

さて、肝心の内容はというと、導入は実にオーソドックス。
野球部に入部した女子マネージャーが、いわゆる日本でいう『女子マネ』と本来の意味での『マネジャー』を取り違えて、ドラッカーの本にはまっていくという展開。ベタではありますが、疲れた脳の隙間にするりと落ち込みます。

随所にドラッカーの引用がなされ、少し文体も硬い印象を受けます。小説と実用書の中間のような読み味が作者の試行錯誤を窺わせます。ドラッカーのいうマネジメントのエッセンスを巧みに部活動のマネジメントに落とし込み、一つの物語にした手腕は確かなものがあります。

ご都合主義的なところがないわけではありません。しかしながら女子マネがこれほど頑張っているのだからハッピーエンドで終わらせてあげたいと思うのは人情でしょうか。
女子マネのマネジメント作戦が思い通りに進むので、小説としての起伏を感じづらいところが、成長途上にあると感じた理由です。でもそれが、現実世界で自分の思い通りにならないビジネスパーソンの心を掴み、エンターテインメントとして作品が成功を収めたのでしょう。

そういう意味で、原書を忠実に再現したものではありませんから実用に耐えうるかと問われれば疑問は残ります。これから経営を志す若者向けといった感じかもしれません。仕事の合間に、軽い気持ちでマネジメントのエッセンスを取り入れましょう。

オススメ度 ☆☆☆

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『深泥丘奇談』 著:綾辻 行人

深泥丘

綾辻行人といえば、『館』シリーズと呼ばれる作品で有名な本格ミステリがありますが、同じくらい『Another』等に代表されるホラーものも描いておられます。

本作は、そんなホラーもののうち比較的、精神を保ちながら読めるライトなホラー小説と言えるでしょう。

世にも奇妙な物語、といえば伝わりやすいでしょうか。感覚的には、あのような”奇談”を集めた、連作短編集となっています。

本作の主人公は、ミステリ作品を世に放つ作家。
幼い頃から住み続けるここ、深泥丘(みどろがおか)で出会う奇妙な物語が、主人公の精神を蝕み始めるのです。

この物語にはパターンがあります。
幼い頃から住み続けているはずの深泥丘なのに、主人公の記憶はひどく曖昧なのです。離島から嫁入りしてきた妻のほうが、詳しいほどの体たらく。奇妙な事件のことを妻に聞くと、きまって「あなたのほうが詳しいはずじゃないの?」と。段々と、主人公が何らかの心の病に冒された人物ではないかとの推測も立ってきます。(そのあたりは本作では最後まで語られませんでしたが。)

住み続けているはずの故郷で、自分の知らない奇妙な出来事が続く。不安定な精神に、奇妙な出来事が続けて起きることで、主人公の体はいつも眩暈に悩まされ、深泥丘病院という病院へ通院することになります。
深泥丘病院も物語のキープレースになっており、ここでも引き続き怪奇現象が続いていくのです。

不安なのが、誰もが事情を知っていそうな雰囲気を醸すのですが、決してそれを語らないということ。主人公は、自分だけ知らないという状態。病院の医師、看護師、そして妻。自分に何か隠しているのではないか、という疑いを持つことさえもしないパニックぶり。なぜか深追いすることもせず、毎度もやっとした終わり方で物語を終えるので、読み手側もスッキリせず、読み味は良くないです。

特有の擬音が、なんとなく奇妙な雰囲気を醸成するのに一役買っていて、不安な気持ちになります。そういうあれこれが重なって、曖昧糢糊とした奇妙な、そして消化不良な物語が出来上がっています。

独特の世界観は感じ取れますが、白黒はっきりした物語がお好きな方には、あまり好まれないかもしれません。続編があるようですから、そちらで結末が描かれれば、評価は変わるのかもしれませんが、現時点では中途半端な、ホラー&サスペンスといったところでしょうか。

オススメ度 ☆☆

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『虎と月』 著:柳 広司

虎と月

 この作品は、中島敦『山月記』に着想を得て、新たな物語を再製したもので、若者向けの工夫が凝らされており、非常に取っ付き易い作品になっています。

オリジナルとなる『山月記』も、同様に中国で著された『人虎伝』を基に書かれたと言われています。本作も同様に、そのような手法で書かれたものではありますが、オリジナル『山月記』の硬質な文体とは違い、著者曰く”ヤングアダルト”向けに描いたミステリであるということ。

分量もそれほど多くなく、肩肘張らずに読了することができました。

本作の主人公は、14歳の少年です。
都・長安から届いた手紙に、「父が虎となった」という内容が書かれており、母に内緒で父を捜す旅にでるところから物語が始まります。

頼る者もなく不安な道のりではあるけれど、道中で聞く父の話に手ごたえを感じながら、目的地に近づいていくに連れ、これまで見たこともないような動物、植物を目にする少年の心情は驚きと希望に満ち、柔らかい気分にさせられます。
そういった何でもない情景描写のなかにも、大小様々な伏線が織り込まれており、ミステリとしての要素を多分に感じ取ることができます。

14歳の少年を主人公に据えることで、『山月記』のように読むものを遠ざけがちな硬い表現を意図的に避け、主人公の心情に感情移入しやすいよう、ともかく読みやすさに配慮し、苦心された作品であろうかと推測します。

若者向けと銘打ってはいますが、現れる謎解きやキーワードとなる漢文の完成度は高く、見る者が見れば感嘆するのではと想像します。私には残念ながら漢文の嗜みがありませんが。

柳 広司といえば『ジョーカー・ゲーム』シリーズに代表されるスパイ小説が個人的には好きでして、こういった趣向の小説を書かれるという点には驚きです。『山月記』を暗誦できる程傾倒されているようでしたので、このあたりの素養はあったのでしょうね。

ともかく、とても楽しい雰囲気の作品です。

オススメ度 ☆☆☆☆

 

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『名探偵の呪縛』 著:東野 圭吾

名探偵の呪縛

 この本は、東野圭吾の本格推理観が凝縮された一冊なのだろうと思います。

高校を舞台にした本格推理小説『放課後』でデビューした筆者が、これまで様々なジャンルの小説を書き続けてきて、ついに至った本格推理への想いを、本作に込めて書き連ねているかのようでした。

本作は『名探偵・天下一』シリーズの作品です。別作の『名探偵の掟』では、主人公の天下一探偵と、刑事の大河原が、本格推理小説の、舞台裏をコミカルに揶揄するという、まさに掟破りの破天荒ユーモアミステリでありました。本作は、ユーモアどころか完全にシリアス。”心を入れ替えて”描かれた作品です。

本作の主人公は、小説家。
彼は、夢うつつの状態で、別の世界へ迷い込んでしまいます。そこは、何やら見たことのある世界。そうして自分が小説の主人公・探偵天下一大五郎となっていることに気付くことになるのです。

その世界には歴史がなく、誰もが「何のためにこの街ができたのか、自分は何のために存在するのか」を常に自答し続けている世界。そんな世界で発掘されたとある”アイテム”が引き起こす事件の解決を、彼は依頼されることになるのです。

探偵・天下一が係る事件というだけあって、トリックは本格のテイストを織り交ぜたキレのあるもの。ですが、作者が言いたいのはそんなことではないんです。

物語の終盤で、発掘されたアイテムの中身が明らかになり、小説家は元の世界に帰ることになりますが、そこで筆者の本格推理小説への想いが滔々と語られます。むしろこの最終章までのくだりは全て前座ではないのだろうかと思わせるほどの温度差を感じました。そこを説明するのは野暮な感じがしますが、幼い頃に遊んだ公園が道路整備で潰されていくような切なさに囚われて、少し感傷的になりました。

多様化していくミステリの世界に、漠然とした不安を感じている筆者の居た堪れない感情が伝わります。ああ、この人は本格推理が好きなんだなあ。

オススメ度 ☆☆☆

 

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『ロスジェネの逆襲』 著:池井戸 潤

ロスジェネの逆襲

 


 あっと驚く展開、魅力的なキャラクター、読後の爽快感。
これほどまでにエンターテインメントに徹した作品があるのでしょうか。

 ハードカバー刊行時に一度感想は書いたのですが、今回、池井戸潤の『半沢直樹』シリーズ第三作『ロスジェネの逆襲』がついに文庫になりました。

 第1作、第2作とメガバンクを舞台に、バンカー・半沢が銀行内部の巨悪と戦い、完膚なきまでに叩きのめす。「やられたらやり返す、倍返しだ!」という流行語まで生んだ近年稀にみる熱い作品であります。

 

第3作となる本作は、半沢が、東京セントラル証券という子会社へ出向させられた後の物語となっています。

舞台は、2004年。
バブル期にヌクヌクと入社し、能力もないのに上に
居座るバブル世代と、バブル後の失われた10年を厳しい環境の中で生き抜いてきたロスジェネ世代の対立の構図がテーマとなっています。


そして、従来のシリーズでも著されたメガバンク合併前の勢力争いの構図。

今回題材となった企業買収、それも敵対的買収の対立構図。
いくつもの敵対構図が描かれ、読む側としては少しは落ち着かせてくれ、と言いたい程の怒濤の展開です。

 自身の勤務体験を基に生み出されたのであろうこの作品は、真に迫っており一企業で勤務

した経験を持った者であれば、閉鎖された企業の中で受ける理不尽さや、不条理そして無念や諦念といった感情も、共感し、あるいは懐かしむことができるかもしれません。

勧善懲悪。
古くから時代劇などで親しまれてきた王道ですが、悪く言えばワンパターンになりがち。
スピーディに、かつ矢継ぎ早に展開を繰り広げることで、それを感じさせない技量には舌を巻くばかりです。


ハッピーエンドで終わるのもこのシリーズの特徴。
読後感が最高なのです。やはり悪役を悪役として描ききることが、
重要なのでしょうね。

何度読んでも面白い、現代経済エンターテインメントの最高峰(私見ですが)ですね。

オススメ度 ☆☆☆☆

 

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『王国』 著:中村 文則

王国

中村文則『王国』を読みました。

とても評しにくい一冊です。
狭義のエンターテインメントであれば、粗筋が面白ければ評価されますが・・・中村文則氏の作品は、エンターテインメントではなく、読者の心を抉ってくる武器のようなものですから。

本作は、前作『掏摸』の姉妹編にあたる作品。ストーリー自体は独立しているので、本作のみ読んだとしても問題はありません。ただし、関連キャラクターが登場しており、世界観の繋がりはあるので、刊行された順序で読むほうが良いでしょう。

売春まがいの犯罪行為を行い金品を強奪し、対象者の弱みを握りつつ、その弱みを売ってお金に変える、美しい女犯罪者・ユリカの物語です。ユリカはとある事情から大金が必要になり、闇の世界に深く関わっていくことになります。

ユリカの関わっている闇社会の勢力と敵対する勢力にいる男・木崎。
この男は、前作『掏摸』にも登場する黒幕です。前作では、この木崎と”掏摸の男”の対決が描かれたのに対して、本作ではユリカと木崎の対決が描かれます。

どちらの勢力についても、結果的には殺される。そういう緊張感のある女の逃亡劇が見所です。
依頼内容によっては、どちらの勢力をも騙さなければならない、薄氷を踏むような展開。興奮しますね、

もう一つの見所は、木崎という男の人間性が垣間見えたことでしょう。
この男、かなり異常です。人間の絶望が大好物なんですね。
ライトノベルやマンガに出てきそうな”黒幕”とか”帝王”といった呼称が似合いそうなキャラクターです。何をしてもこの男には敵わない、絶望感がすごい。

冒頭でも述べたとおり、読者を楽しませようとする意思は感じられません。
単純に物語、構成や文の美しさを楽しめる人でなければ、面白く感じないかもしれません。

オススメ度 ☆☆

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『スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ』 著:知念 実希人

外科医を辞め、内科医としての修業を積むべく、天医会総合病院の門を叩いた小鳥遊優は、そこで運命的な出会いを果たす。天久鷹央。空気を読めず、人とのコミュニケーションに難がある彼女は、しかし日本最高峰の頭脳を持つ天才女医だった―。宇宙人による洗脳を訴える患者。謎の宗教団体。そして、院内での殺人。鷹央と小鳥、二人の出会いを描いた長編メディカル・ミステリー。

知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』シリーズの最新刊が文庫書下ろしで発売されています。
本作は、短編集となる『推理カルテ』シリーズの0巻にあたる作品で、シリーズでは初の長編ミステリです。

医療×謎の新感覚メディカルミステリーを標榜する本シリーズ。
本作では、主人公となる医師・小鳥遊と、天才診断医・天久鷹央の出会いが描かれます。

20代にして総合医院の副院長を務める天才にして、幼い頃からアスペルガー症候群に悩まされ続け、医院でも煙たがられている鷹央。
これまで部下についた者は、鷹央に付いていくことができず、途中でリタイアする者ばかり。
そんな事情も知らずに新たに派遣されてきたのが、元内科医の小鳥遊。
当然上手くいくはずがない・・・といったところから物語はスタートします。

院内で起こるショッキングな殺人事件、宗教結社の陰謀、病院内で暗躍する悪徳医師など長編なだけあって内容はてんこもり。
なかなか濃い一冊です。

従来の『推理カルテ』シリーズのライトさ、テンポの良さが失われてしまった気がしないでもありませんが、これはこれで見所はあるかなぁと思います。
ただ、新感覚メディカルミステリーというよりかは、既存のミステリの枠内に収まってしまったような内容になってしまったかなとも。
その点は少し残念。

個性豊かなキャラクターは揃っています。
読み口の軽さを売りにするのなら、もう少しテンポ良くしても良かったかなと思ったり思わなかったり。
従来のミステリとの差別化が図れませんしね。普通の本格ミステリにしては物足りませんし。
駄目というわけではありませんが、個人的には短編集のほうが楽しめました。

オススメ度 ☆☆☆