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自らの職業と近しいテーマを取り扱われた書籍を見つけたときに、多くの読書家の方々はとりあえず手に取ってみるのではないでしょうか。 正直に申し上げて、この本に関しては特段トピックというほどのものもなく、経理部に勤めていたというだけの理由で衝動的に買ってしまったものです。 |
タイトルのとおり、中小企業の経理部に勤務する女性経理社員の日常をベースにした小説です。
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『ブギーポップ』シリーズの第19作目、『オルタナティヴ・エゴの乱逆』が発売されています。 上遠野浩平といえば、その全ての作品の世界観が絶妙にリンクしつつ、セカイ系と呼ばれるいちジャンルを築いたライトノベル作家。
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現在は『ブギーポップ』『ビートのディシプリン』『奇蹟使い』『ヴァルプルギスの後悔』『螺旋のエンペロイダー』『ナイトウォッチ』『事件シリーズ』『しずるさん』『ソウルドロップ』など数々のシリーズが刊行されていますが、本流の最新刊は2014年11月以来。待たされました。
本作では、主人公(?)たる死神・ブギーポップが幾度も登場します。従来のシリーズでは、思わせぶりに登場し、「世界の敵」を刈り取って泡のように消えていく登場スタイルが多かったのですが、序盤からしゃべるしゃべる。
理由は分かりませんが、本作における主人公が、過去作に登場した二人であるというのも影響しているのかもしれません。
織機綺(オリハタアヤ)と谷口正樹。(表紙の二人ですね。)
第2作『VSイマジネーター』で主人公を務めた二人が、再び本作の主人公に。
合成人間のはずなのに何の能力も持たない”カミール”こと織機綺のもとに、統和機構内のサークル「カウンターズ」と「アンチタイプ」という組織が接近します。
分かりやすい構図と準レギュラーたちの登場。挿絵の緒方氏もブギーポップの”左右非対称の表情”を挿してきたり、ファンサービスがたっぷり。
内容にしても、いつもの象徴的で概念的な頭にすっと入ってこないメッセージではなく、登場人物を介して強い意思を感じさせる、いつもと違うやけメッセージ性の強いブギーポップのように感じました。気のせいでしょうか。
一応ハッピーエンドのような形で終わりますが、今後もひと波乱ありそうな気配。広げ続けた風呂敷を、このまま更に広げていくのか、うまく畳むのか、そこにも注目したい・・・のですが、徐々に完結への形も見せてほしいかなと思い始めています。
舞台はタイ・バンコク。
旅行に訪れたカップルが事件に巻き込まれてゆくオーソドックスな導入です。現地では、”ダルマ女”という四肢の欠落した女性にまつわる都市伝説が囁かれ、主人公たちはただの噂だと楽観的に考えていたところ、迷子捜しをしていた彼女が失踪してしまうのです。彼女を探すため、現地の日本人たちの協力を得て、バンコクの闇組織に立ち向かうというお話です。
グロテスク表現が苦手な人はそもそも手に取らないでしょうし、そこを読みたくて買う方には特に問題ないと思いますので書いてしまいますが、この闇組織では、富裕層向けにスナッフビデオ、つまり殺人を録画したビデオを撮影し、販売しているようなのです。流石に解体場面は目を背けたくなることもありますが、主観ですけど、比較的抑えられた表現ではないかと思います。分量としても全体の1割あるかないかくらいでしょう。
小説としては、グロテスクさよりも、見知らぬ地で事件に巻き込まれる恐怖をシミュレートしたエンターテインメントという印象を受けました。土地勘もない、知り合いもいない、言語が通じない、警察は袖の下を要求してくる。果たして自分はこのアウェイの地でトラブルを解決することができるのだろうか。読みながら夢想してしまいます。
失踪した彼女を助けると聞くと少年誌的展開であれば、見事悪を討ち滅ぼして大団円といったところでしょうが、グロテスク表現を用いた作品ということを前提にすると、そううまくことは運びません。もしかして最悪の展開かもと思いながら読むのも一興ですね。
また、著者自身がタイへ旅行したときに着想したもののようで、ご当地ネタも盛り込まれ、現地の猥雑な雰囲気が伝わる描写も一つの見どころ。
ミステリー作家らしく、少し斜め上の結末が用意されているのも良いです。デビュー作『死亡フラグがたちました』の続編は、少し期待しすぎたのかなという思いもありました。一芸に秀でたという作品ではありませんが、本作は失踪ものサスペンスとして、なかなか読み応えのある作品となっています。
オススメ度 ☆☆☆
長い期間にわたり心神喪失状態という、主人公失格と言われかねない状況に置かれていた主人公、黒の剣士キリトもようやく覚醒し、因縁の敵PoH、そして暗黒王ベクタとついに刃を交えることとなりました。これまで関わってきたみんなの想いを!というベタで少年誌展開ではありますけれど、きっとみんなこれが読みたいのです。
アンダーワールドの戦いの結末だけではなく、無事に人工フラクトライト(簡単にいうと、高度なAIのようなものです。)アリスも現実世界へ脱出成功し、少し現実世界でのエピローグが語られることとなります。
単巻で物語が完結するケースが多いライトノベルというカテゴリの中で、よくぞ勢いを保ったまま最後まで書き上げ、かつ高品質の読み物に仕上げるあたり著者の力は素晴らしいものです。正直最後のほうは“心意”というなんでもありの力に頼った感もありましたが、ラノベはこれで良いのかもしれません。
この作品は、他のいわゆる異世界ものと呼ばれる量産ラノベとは違っていて、それなりに理屈があり、近い将来もしかしたら現実世界もこうなるのではないかという想像を掻き立てられるところに美点があるように思います。そして、ゲームの中でなら最強になれるし、かわいい子とも知り合えるという可能性を見いだした点を、読者層が評価したのかもしれません。かくいう私もその一人です。
少年向けの作品をハッピーエンドで終わらせるのは創作者の義務であると、勝手に思っています。その義務を見事に果たした著者に賛辞と、感謝の気持ちを贈ります。本シリーズは、web連載版に加筆修正したものでしたが、書き下ろしとなる新章を予定されているようなので、楽しみに待ちます。
大きな会社ならブランディングに関するルールや規程、広報部門などの専門部署のプロフェッショナルが対応してくれそうなものですが、中小企業や伝統的なやり方に対する信奉の強すぎる会社では望むべくもありません。
当社も御多分に漏れず、担当者が思いつきでネーミング案を挙げてきたり、素人(言い方は悪いですが、技術専門職の方々などですね。)たちを集めて話し合いで決めてしまうという状況。ブランディングもなにもありません。この状況を打破しなければ、という方は多いのではないかと。
目次は次のとおりです。
第1部ではネーミングの捉え方ということで、ネーミングの成功事例や権利化に関する基本的事項の確認をし、第2部「ネーミング開発の進め方」では、少し具体的にネーミングを発想する方法が記述されます。
第3部「ネーミングの発想と評価の技法」では、筆者の研究成果から7つの発想・評価方法が教示されます。一番勉強になったと感じたのは本章。特に、ネーミングの評価について。
「良いネーミングは『5つの評価』でチェックする」
1.意味、視覚、音感で評価する
会社、商品、サービスの内容や意味が伝わるか、色や形が良く、見て見やすく、イメージが良いか、発音がしやすく、聞いて気持ちよく、感じが良いか、というポイント。
2.ネーミングは7文字以内が理想、長いと覚えられない
3.「見、読、書、聞、話、覚」の「6やすさ」があるか
5.「現代性・クリエイティブ・グローバル」
第4部は、ネーミングより広いブランディングの入門編です。
プロの方々もやっていることは基本的に同じです。その手順が体系化されていますし、当然品質や発想の量からしても、一企業の担当部署とは比べるべくもないといったところでしょう。
ネーミングの良し悪しが商品やサービスの売れ行きに影響する点は事実です。その点を軽視している人間が多すぎるという点が問題なのでしょう。本書では、危機感を煽りつつ、ネーミングに関する技法を実務に即して伝えている点で参考になりそうです。
新規事業開発や技術開発部門の若手、広報部門、知的財産部門、企業法務部門の担当者向けに良い教材になるように思いますし、筆者が入門書と述べていることから専門家にとっては基本中の基本なのでしょうから、外部コンサルタントに任せるにしてもこのあたりのことをどの程度知っているのかという点は、業者選びの試金石になりそうです。業者任せは一番危険ですからね。
そういうわけで、目を通しておいて損はなかろうという内容の本でした。
本作は4編の中編を収録したものなので、4つの新堂を楽しめることになるのですが、テーマが共通しているのは、何かにとりつかれたかのような偏執的、妄執的な傾向が主人公や登場人物にあることでしょうか。
第1編の『半蔵の黒子』では、155センチ90キロ、禿げて三重顎、口臭、悪臭、腋臭という三冠王どころかある意味パーフェクトな人物が、「自分にはこれらの欠点を上回る魅力があるのだ」と信じて疑わない話。
もちろん何においても自分を正当化してしまうわけなのですが、そんな人物が青春時代にライバル視していた人物と再会。その人物は当時半蔵の想い人とも結ばれていた成績優秀のイケメン。
そんな人物を目の前にして、半蔵は一体どんな行動をとるのか。
半蔵の境遇そのものも高いレベルでグロテスクなのですが、言動や行動についても負けず劣らずなので、トラブルにならないわけがありません。間違いなく黒新堂の作品です。
初めて読んだ新堂作品がこちらの作品でしたので、ある程度予想していたとはいえ強烈でした。お気楽なライトノベルやお定まりの殺人事件を読む程度の読書人にとっては目の覚めるような、というか目が覚めました。
他の3作品もグロさエグさともに高いレベルです。でも目を離せない異様な魅力のある本です。こういったジャンルもありかなと思ってしまいますね。
オススメ度 ☆☆☆
本作は、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹氏によって書かれたものであり、やはりテーマはお笑いなのです。芸能人と呼ばれる方々が書く作品というのは、読む前からあまり期待できないということは誰しもが思うところなのですが、本作に関していえばその期待を大きく裏切り、この作品は本物の作家が書いていると断ずるものに仕上がっているように思えました。
(純文学など読んだこともないのに偉そうに書いて申し訳ありませんが。)
お笑いコンビ・スパークスの徳永。お笑いコンビ・あほんだらの神谷。この二人を軸に、お笑いのあり方、苦悩、悲哀、そして楽しさを表現しようとするのがこの作品です。けしてサクセスストーリーではありません。おそらく又吉氏自らの苦しみや下積み時代の苦労を糧に描かれたものであろうと思います。
神谷は孤高の天才。常に他人とは違う笑いを追及していく一見すると浮世離れしているようなそんな人間です。徳永は、花火大会で神谷と知り合うことになるのですが、他人とは違う笑いを追及しようとする神谷の姿勢に憧れるようになります。神谷は、自分の伝記を書くように徳永に命令し、徳永はこれを快く請けるのです。なにやら可笑しな関係です。そうして伝記を書くための徳永の眼を通して、神谷の”お笑い”への姿勢が読者の前に露にされていきます。
水嶋ヒロさんが「KAGEROU」を出版したときに、「峻烈」という言葉を用いて評価された方がいましたが、「峻烈」というのはこの作品のようなものを表現するときに用いるべきでしょう。徳永・神谷の言葉や想いを通じて、お笑いに賭ける想いが膨大な熱量をもって襲い掛かってくるのです。
引用するのももどかしいですが、
「笑われたらあかん、笑わさなあかん。って凄く格好良い言葉やけど、あれ楽屋から洩れたらあかん言葉やったな。」
「あの言葉のせいで、笑われるふりが出来にくくなったやろ?あの人は阿呆なふりしてはるけど、ほんまは賢いんや。なんて、本来は、お客さんが知らんでいいことやん。ほんで、新しい審査の基準が生まれてもうたやろ。なんも考えずに、この人達阿呆やなって笑ってくれてたらよかったのにな。お客さんが、笑かされてる。って自分で気づいてもうてんのって、もったいないよな。」(電子版P43)
このあともちろん”オチ”がついていますけど、お笑いへの鋭い指摘をお笑いをしながらやるという巧妙な技です。二人とも漫才コンビという設定なので、何気ない会話にもぼけとつっこみがあって、軽妙な掛け合いが癖になります。
「ネットでな、他人のこと人間の屑みたいに書く奴いっぱいおるやん。作品とか発言に対する正当な批評やったら、しゃあないやん。それでも食らったらしんどいけどな。その矛先が自分に向けられたら痛いよな。まだ殴られた方がましやん。でも、おかしなことに、その痛みには耐えなあかんねんて。ちゃんと痛いのにな。自殺する人もいてるのにな。」
「はい、僕も狂ってると思います。」
「だけどな、それがそいつの、その夜、生き延びるための唯一の方法なんやったら、やったらいいと思うねん。きついけど、耐えるわ。(略)」(電子版P82)
かとおもいきや、オチはないけれど、真摯にお笑いに取り組む神谷の様子が描かれていたり。
本人自身も、膨大な量の読書をこなす読書家。それによって培われた地の文も、音数律というかリズム感が良く、私が勝手に持っていた「純文学」の負のイメージを払拭するものでした。
大衆文学を専ら読む人や普段書物から離れた生活をしている方もいるでしょう。そういう方にはやや拒絶反応がでるかもしれない表現を多用されているようにも思います。しかしながら、それを補って余りあるほど、「芸人の世界のことを知ってほしい」という氏の言葉どおり、それに値する峻烈な作品だったのではないかと思います。
オススメ度 ☆☆☆☆
本第3作でも、主人公たち4人が自らの持つ特殊スキルを使って、とっても楽しそうに銀行を襲います。
彼らの様子からすると、前作からかなり時間が経過しており、少し歳をとったよう。引退も考えなければ・・・・といった会話も聞こえてくるほど。そんな彼らが、今回もひょんなことから、強盗とまったく関係のない事件に巻き込まれていき、また騒動の渦に飲まれていくことになります。
伊坂幸太郎の作品は、テーマによって毛色が違いすぎるきらいがあります。『終末のフール』のようなSFテイストでありながらひどく閉塞感のある世界観を描いたものや(個人的に糞つまらないです。)、『ゴールデンスランバー』のような、スリルと疾走感に溢れるエンターテインメントを描いたものだったり、(個人的に糞大好きです。)、『あるキング』なんかは、一人の天才を描いた寓話。
エンターテインメント色の強い作品のほうが好みの私にとっては、この『陽気なギャング』シリーズは、他の独特のもどかしさやイメージしにくい空想的な表現の多い作品とは違って、世界観を掴みやすい。
このシリーズを幼い(?)頃に読んでから伊坂幸太郎という作家を知りました。作家というのは、作風がありますから、基本的に同じテイストの作品が出来上がるものですが、伊坂幸太郎という作家の作品は先ほども言ったように作品ごとに大きく違います。
この、キャラクターの特技をく組み合わせて、一つの物語を作り上げる技術は王道ではありますが、当時の自分にとっては衝撃的でした。『ルパン三世』のような世界観が大好きなんでしょうね。
オススメ度 ☆☆☆
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湊かなえ『高校入試』を読みました。 公表を博した『告白』の印象があったので興味を持ったわけです。予想どおりといいますか、表題からも分かるように、学園モノミステリー。 特に『入試』に焦点を充てた社会派な内容です。 本書は、映像作品用の脚本の依頼に応えて、著者が創り上げたものですが、小説化にあたっては加筆・修正が加えられたようです。 |
この作品では、高校入試の前日から当日にかけてある事件が起こります。
この作品の特徴は、非常に多くの人物が登場し、各々が自らの視点で心境を語ってゆく稀有な構成でしょうか。映像作品の脚本をベースにしているからでしょうね。
そのため、語り部の視点が登場人物23名を移っていきます。本を読み慣れた方でも戸惑うかもしれません。また、映像作品にモノローグはない、という著者の考えから、会話のみで進行するシーンもあり、リーダビリティは低いです。
生徒たちではなく、登場人物がほとんど教師というのも特徴でしょうか。
著者に教鞭をとっていた経験があるようで、事なかれ主義の管理職や当たり前のような残業、生徒との複雑な関係といった学校という閉鎖空間にある”濁り”のようなものを上手く描き出しているように感じました。
採点ミスによる合否の判定誤り。
時々現実世界でも報道されますが、どれほど一人の人間の人生というものに影響を与えることでしょう。社会派、とレッテル張りしたのはこの点が一つのテーマとなっているためです。
そうした重いテーマを扱いながらも、試験中に試験内容を掲示板に書き込んでいくという表現であったり、時事とエンタメを融合させた工夫が織り交ぜられていてさほど堅苦しさは感じません。
大学入試センター試験が毎年のように変わってゆくように、入試制度そのもののあり方も見直さねばならない時期に来ているのかもしれませんね。
オススメ度 ☆☆☆