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『名探偵の呪縛』 著:東野 圭吾

名探偵の呪縛

 この本は、東野圭吾の本格推理観が凝縮された一冊なのだろうと思います。

高校を舞台にした本格推理小説『放課後』でデビューした筆者が、これまで様々なジャンルの小説を書き続けてきて、ついに至った本格推理への想いを、本作に込めて書き連ねているかのようでした。

本作は『名探偵・天下一』シリーズの作品です。別作の『名探偵の掟』では、主人公の天下一探偵と、刑事の大河原が、本格推理小説の、舞台裏をコミカルに揶揄するという、まさに掟破りの破天荒ユーモアミステリでありました。本作は、ユーモアどころか完全にシリアス。”心を入れ替えて”描かれた作品です。

本作の主人公は、小説家。
彼は、夢うつつの状態で、別の世界へ迷い込んでしまいます。そこは、何やら見たことのある世界。そうして自分が小説の主人公・探偵天下一大五郎となっていることに気付くことになるのです。

その世界には歴史がなく、誰もが「何のためにこの街ができたのか、自分は何のために存在するのか」を常に自答し続けている世界。そんな世界で発掘されたとある”アイテム”が引き起こす事件の解決を、彼は依頼されることになるのです。

探偵・天下一が係る事件というだけあって、トリックは本格のテイストを織り交ぜたキレのあるもの。ですが、作者が言いたいのはそんなことではないんです。

物語の終盤で、発掘されたアイテムの中身が明らかになり、小説家は元の世界に帰ることになりますが、そこで筆者の本格推理小説への想いが滔々と語られます。むしろこの最終章までのくだりは全て前座ではないのだろうかと思わせるほどの温度差を感じました。そこを説明するのは野暮な感じがしますが、幼い頃に遊んだ公園が道路整備で潰されていくような切なさに囚われて、少し感傷的になりました。

多様化していくミステリの世界に、漠然とした不安を感じている筆者の居た堪れない感情が伝わります。ああ、この人は本格推理が好きなんだなあ。

オススメ度 ☆☆☆

 

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