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『白砂(はくしゃ)』 著:鏑木 蓮

苦労して働きながら予備校に通う、二十歳の高村小夜が自宅アパートで殺害された。中年男性の目撃情報と大金が入金されていることから、援助交際との関わりが捜査線上に浮かぶ。「こんなにつましい暮らしぶりで真面目な彼女がなぜ?」

違和感を抱いた下谷署の刑事・目黒一馬は別の角度から捜査を開始する。小夜の両親はすでに亡く、なぜか祖母は頑なに遺骨を受け取らない。鍵は小夜の故郷にあると見た目黒の執念が、運命に翻弄された女たちの人生を浮き彫りにしていく。最後にたどり着いた、死の裏にある驚愕の真実とは。切なさあふれるミステリー。

鏑木 蓮氏の『白砂』を読みました。
近所の本屋でオススメされていたので、手に取ってみました。
氏の作品は初めて読みますが、とても味わい深い作品でした。

本作は、苦学生の高村小夜が、自宅のアパートで他殺体で発見されるところから物語が始まります。
お決まりのサスペンス・ミステリかなと思いながら読んでみますと、どうやら少し趣が違います。

捜査するのは、警部・目黒。
彼の捜査手法は独特です。
彼は、物証をないがしろにするわけではありませんが、それよりも心を解き明かすことに重点を置く捜査を実践しています。
有力な証拠であっても、心の流れに納得のいかない場合は、むしろその物証を疑うという手法です。

物証ではなく、被害者や加害者が現場でどういう心理状態だったのか、動機はどんな過去の事件に根ざしているのか、といった細やかなことまで調べ上げ捜査を進めていきます。
最初の被害者である、高村小夜は、死亡した後生きている様子が描かれることはほとんどありません。
それにもかかわらず、この心の流れに沿う捜査手法の前では、生前の高村小夜の言動、思考、生き様が次々を明らかにされるうちに、非常に魅力的な人物だった、生きた様子を見たかったなぁ、と不思議な気持ちにさせられます。

目黒を補佐するのが、イケメンのチャラい男・山名。
本庁の人間と組まされるよりも、目黒と組むほうが勉強になる、といって目黒とコンビを組むことになります。
娘と仲良くなるための申出ではないだろうな、と疑われながら捜査を進めていく二人。
軽口や掛け合いも面白くてなかなかのいいコンビです。

ストーリーそのものはオーソドックスで、意外性やトリックを推すような作品ではありません。
実際、中盤あたりで事件の真相自体は明らかになってしまいます。
ですが、最初にも述べたように、人の心情への掘り下げが物語に深みを与えているように感じられます。

随所で登場するキャラクターたちも、どこか誠実で読み味を爽やかなものにしてくれています。

個人的に本作品には、読んでよかったと思えるだけの価値はあったように思いました。
涙腺崩壊とはいきませんが、心に染み入る人情派ミステリでした。

オススメ度 ☆☆☆

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