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『虚像の道化師』 著:東野 圭吾

ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。
男は何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りた様子だったが、教祖は自分が念を送って落としたと自首してきた。
教祖は本当にその力を持っているのか、そして湯川はからくりを見破ることができるのか(「幻惑す」)。
ボリューム満点、7編収録の文庫オリジナル編集。


「探偵ガリレオ」シリーズの最新作が文庫化されました。
本作は7編から成る短編集です。

「探偵ガリレオ」シリーズとは、物理学的・科学的なトリックが用いられた事件が起きたとき、刑事・草薙が物理学の専門家・湯川准教授を頼り、ガリレオ先生と呼ばれる湯川がその謎を物理学的に解明していく、という大きなテーマをもったシリーズを指します。

ドラマ化もされていますし、過去のシリーズ作品も人気があります。

本作は短編集なので、各編のまとめをご紹介します。

「幻惑す(まどわす)」
あらすじにある新興宗教団体での事件のお話です。
念を他人のからだに送り込むことで、体調の改善や運気の上昇を謳い、次々に信者を獲得していく悪徳宗教団体で、からだに触れずに人を飛び降りさせて殺してしまったと自首してきた教祖に対して、警察は「自殺」の見解を表明。
そこで湯川は、何か物理学的なトリックが使われたのではないか、と疑い宗教団体へ乗り込みます。

最後まで読んでみれば、なーんだ、というお話ではあります。
ですが、物理学的なトリックとはそういうものかもしれません。
如何に公知の技術や反応を利用し、応用し、エンターテインメントとして魅せる、という点では面白いです。
ただ、利用される技術が高度すぎると我々一般人がトリックにピンと来ないというのが難点ですね。

「透視す(みとおす)」
封筒に入れた名刺を透視し、お客さんを盛り上げるホステスの死。
事件自体はすぐに解決したけれど、透視能力という謎だけが残りました。
そこで、目の前で透視能力を披露されたという縁もあり、湯川が科学的に解明しようと乗り出します。

本作では、事件そのものは警察があっさりと解決し、残された謎を湯川が解明するというパターンが多かったです。
このストーリーのラストでは、湯川が、遺された者の心を癒すことに力を注いでおり、シリーズを通して持っていた人間的な感傷を切り離された思考の持ち主というイメージからすると、意外な面を見せ始めます。

「心聴る(きこえる)」
職場の部長が自殺し、同じ部署のエリート社員が精神的な病により警察(草薙)のお世話になってしまう事態に発展。
二人に共通するのは、長期間幻聴が聞こえていたということ。
草薙から相談を受けた湯川が、幻聴の謎を物理学的に解明します。

作者注にもありますが、実用化されていない技術がトリックの根幹にあります。
本格ミステリの場合ルール(?)違反なのかもしれませんが、エンタメと割り切って読めれば面白いです。

「曲球る(まがる)」
ロートルプロ野球選手の妻が何者かに殺害されます。
犯人自体はあっさり逮捕されますが、妻が生前用意していた謎のプレゼント箱が残りました。
不倫していたのだろうか、疑問に思った草薙は湯川に謎の解明を依頼します。

湯川さん関係ないのに駆り出されて可哀想。
と思わなくもないですが、科学の力で謎を解明、夫婦間のわだかまりも解きほぐすラストにはほっこりします。
ロートルプロ野球選手の変化球のキレのお世話までする湯川。
活動範囲が広がってきました。

「念波る(おくる)」
双子の間にテレパシーは存在するか?
というテーマに湯川が挑みます。

「偽装う(よそおう)」
クローズドサークルで起こった夫婦殺人事件。
現場に凝らされた偽装を湯川が見抜きます。

「演技る(えんじる)」
とある劇団で起こった殺人事件。
容疑者にはアリバイがないければ、トリックを使った証拠も示せない。
容疑者と親交のあった湯川は、草薙に近づきます。

段々おざなりな説明になりましたね。
エンタメ系小説は展開が命なので、あまり詳しく書いてもいけませんし、この程度にしておきます。

本作の傾向として、物理学的トリックが用いられることはもちろん、事件の本筋とは離れたところ科学的な技術が使われています。
湯川さんも登場しにくそうでした。

事件そのものの解決よりも、明らかにしなくてもいいような小さい疑問や違和感、残された遺族や被害者の気持ちを整理させるために登場するようになった湯川准教授。

流石にネタに苦しくなってきたのかなと余計な心配をしつつ、次回の文庫作は長編のようなので、期待して待っています。

オススメ度 ☆☆☆

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